「ごめんな。君とは付き合えない。」
「そっか。ありがとう。じゃあね。」
「うん。ごめん。」
中3になってから3人目だ。こんなぼくを好きになってくれるのはありがたい。こう言っちゃなんだが、ぼくはモテるみたいだ。
バスケも県大会で準優勝して、引退した。
いろんな高校から声をかけてもらったけど、ぼくは公立の南高に行くことを決めた。
バスケの先輩もたくさんいるし、家からも近いからマンションの公園で一緒に練習してる子供達にバスケを教えられる。学力もちょっと勉強を頑張れば合格できるレベルだ。
あと、もう一つ理由がある。そっちがメインかもしれない。
ぼくは南高に行くことを決めた時から塾に通っている。お母さんやお父さんはバスケで高校に行くと思っていたらしいから驚かれた。
問題はその塾にいる先生だ。すごく優しくて、綺麗で、落ち着いた雰囲気を持っている。勉強がめんどくさくなったらバスケで高校に行くのもありかと思ったけど、先生がいるから塾に行きたくて仕方なかった。
先生は大学1年生らしい。ぼくからしたらものすごく大人だ。
でもたまに、悲しい顔をしている時がある。その時に
「綺麗だな」
と思う。
でも所詮中学生だし、相手にされる訳ない。
「先生、何かあったの?悲しい顔してない?」
「お、時藤君。君、将来モテそうだね〜」
「そーいうんじゃなくて!なんかあったの?」
「ちょっとね。でも大丈夫だよ。ありがとう。」
「どうしたの?」
「そんなことはいいからこの問題早く解きなさい。受験までなんてあっという間だよ。」
いっつもこうやって子供扱いされる。
きっとぼくが大人だったら話してくれたのかな?大人ってなんだ?だって年も4つしか変わらないじゃん。ぼくの親は6歳離れて結婚してるし、別に関係ないだろ。
そんなこと思っても、10代の4つは大きな差だ。ぼくだって11歳の子を見る目は子供を見るようなもんだ。
分かってる。分かってるんだよな。
受験も近づいてくると、夏には葉っぱがたくさんついていた木も丸裸で寒そうで、寂しそうだ。
ある日、塾が開く時間よりもだいぶ早めに着いてしまった。寒いし、カギが開いてたので先生がもう先に来ているのかと思って入ったら、奥の部屋で先生が泣いている声がした。
「なんでそんなに急なんですか?」
「ごめん。」
「私のこと何も考えてくれてないんですね。」
「ほんとごめん。」
聞いてはいけない内容だった。相手は男の塾の先生だ。付き合ってたんだ。
「ごめん。分かってほしい。」
「いいですよもう。分かりました。」
「ごめん」
聞いてはいけないと思いながら、ここから動くことができない。男の先生が出てきたのですぐに隠れた。先生は残されて泣いてた。
声をかけていいのか。
準備時間に入ったから怒られるかな。
どうしよう。
でもずっとここにいてもバレるし。
ハンカチを持って登場したらいいのか。ドラマみたいに。
ぼくは勇気を振り絞って先生の前に行った。
「先生、これ。はい。」
「え!!??時藤君!!??なんでいるの!!??」
「いや、勉強しようと思って。そしたら。」
「そっか。えらいね。じゃあ座って勉強しておいで。ハンカチありがとう。君は将来モテるだろうね。でも私も持ってるからいいよ。」
「先生なんで泣いてるの?」
「え?」
自分でもめっちゃ性格の悪い質問をした。なんで聞いたかは分からないけど、なぜか聞いてしまった。
「目にゴミが…そんな訳ないね。聞いてたんでしょ?ダメだぞ盗み聞きなんてしたら。」
「ぼく、先生のこと好きです。」
「何言ってんだよ。おばさんからかったらバチが当たるぞ〜?」
「嘘じゃありません!本当です!」
「んー。そっか。…うん。ありがとう。嬉しいよ。」
「は…はい。」
「でも君が今やらないといけないのは、勉強じゃないかな〜?」
「はい。」
「でもね、本当に嬉しい。なんだか元気出たよ。ありがとうね。」
と頭を撫でられた。
「ぼくが大人になったら付き合ってください!」
もう、勢いでなんでも言えた。気持ちが溢れて言葉になって出てくる。
「大人になったらか。ん〜考えとくね。じゃあ今日も大人になる為に勉強がんばろ〜!」
これ以上は入ってきてほしくないかのように先生は話を切り上げた。ぼくがもっと大人で、先生と同じ年ぐらいだったら結果は変わっていたのかもしれない。
結局、ぼくは盗み聞きして、ハンカチも貸せず、急に好きだと言って先生を困らせただけだった。自分の子供っぽさが嫌になる。
目の前に開かれた数学の問題を見て、こんなの解けても大人になれないと思った。
「早く大人になりたいなぁ。」
大人が何かも分からないけど、吐く息が白くなり、ぼくにとって15回目の冬が来た。